異型断面糸とは絹や羊毛といった天然資源から抽出される糸ではなく、ナイロンなど化学的に抽出された丸い断面の糸の欠点を補う形で誕生した、花の形状やY型などの形の特殊な断面(異型)の糸のことである。
異型断面糸についてより深く理解するためには、様々な糸の断面図について理解する必要があります。
まずもっとも古くから存在し多くの衣類に利用されてきた糸である、「綿」「羊毛」「絹」といった植物や動物など天然素材から製糸した糸の断面図からです。
それぞれ製糸方法は違えど、人工的に作られたわけでは有りませんから、糸の断面図を顕微鏡などで拡大して見てみると形は規則的などは一切なく、乱雑な形状になっていることがわかります。
乱雑が決して悪いわけではなく、この乱雑さのおかげて吸水性や通気性、保温性などを向上させる効果があります。
ちなみに再生繊維や半合成繊維と呼ばれる「レーヨン」「キュプラ」「アセテート」といった植物から製糸した糸については、形状はいびつではありますが、ある程度規則性のある整った断面図になっています。
↓絹の断面
次に登場したのは人工的に作り出した「ポリエステル」「ナイロン」「アクリル」といったタイプの糸です。製法が金型から押し出すように抽出する形の製法ですからどうしても均一の規則正しい断面の糸が出来上がります。特にポリエステルやナイロンは真ん丸な形です。
↓ポリエステルの断面
人工的に作り出す分、大量生産が可能になったのですが、そのまま利用してしまうと着用した際のぬめり感であったり、布の表面が光沢を帯びてしまったりする欠点がありました。
そこで改良するような形で登場したのが、異型断面糸と呼ばれるタイプの糸です。
糸自体はポリエステルやナイロンですが、花形や星型、三角形など様々な形に工夫することで、様々な性能を持たせることができたり、風合いも絹のようにすることができるようになったのです。
↓花形の断面図
その形は本当に様々で、各社が工夫して作り出しています。
最近では、植物から作り出されるキュプラやアクリルといった素材でも異型断面糸を作り出すことに成功しています。
画像参考)https://www.jcfa.gr.jp/about_kasen/knowledge/shape/index.html
異型の断面とすることで、糸に様々な性能を生み出すことができます。
ポリエステルをそのまま利用していると光沢がでてしまいますが、異型断面糸とすることで絹のような風合いを出すことができます。絹が擦れることで出る音のことを絹鳴りと呼ぶのですが、その音を再現することが可能になります。
断面を異型にできるということは、例えば中を空洞にして別の素材を詰め込むということもできるようになります。そこに吸水素材を注入することにより、給水速乾素材にすることができます。
ひつじ雲型と呼ばれる形にすることで、肌触りをひんやりさせることのできる接触冷感機能を持たせることもできます。まるでシルクのようなイメージというわけです。
異形糸タフタと呼ばれる生地で作られたこちらのブルゾンは、発色の良い目立つ色に仕上げることができています。