杢目金屋さま

株式会社杢目金屋は、今から400年ほど前に生まれた「木目金」という技術を用いたジュエリーの企画・製造・販売を行う会社で、2003年に設立されました。木目金とは江戸時代、刀のつばに使用されることが多かった金属加工技術です。細部の工程の複雑さや口頭伝承の曖昧さ、彫金と鍛金の両方の基礎技術がなければ習得できないという困難さから、廃刀令後はその技術は廃れていってしまいました。でもその後、木目金の特殊な技術に魅了された制作者たちによって見事な復活をとげ、現在に伝承されている幻の技術なんです。

この技術をジュエリーに生かしているのが当社というわけですね。色の違う金属を重ね、ねじったり掘ったりして模様を出していくんですが、すべてが手作りなので二度と同じ模様は生まれないんです。結婚指輪にした場合、同じ金属板からペアのリングを作るので、その模様は世界にご夫婦お2人だけが持っているもの。繋がった模様を2人で分かち合い、肌身離さず持っていられるというのは、まさに結婚指輪にこそ適した技術だといえるでしょう。さらに、結婚指輪を制作した時の板を保存しておいて、お子様が誕生した時にはベビーリング、結婚10周年にスイートテンリングを作るなど、ブライダルをきっかけにお客様の一生に寄り添っていけるのが当社の技術の魅力のひとつ。当社のホームページで公開していますが、お客様からの喜びの声は1万件以上にも及んでいるんですよ。

当社の代表取締役である髙橋正樹は日本で唯一、木目金に関する美術の博士号を取得していて、文化財である日本刀の復元研究にもかかわっています。2016年には、ドイツ・エッセンの国際的なプロダクトデザイン賞である「レッド・ドット・デザイン賞」で、結婚指輪として日本初となる「Reddot Design Award」と「グッドデザイン賞」のダブル受賞を果たしました。

効率の良さと利益ばかりが優先されることが多い現代社会の中で、手間と時間をかけて手作りにこだわる当社の姿勢は、時代に逆行しているかもしれません。でも、日本が世界に誇るこの素晴らしい金属加工技術の伝統を現代、そして未来へ伝えることが、私たちの使命だと考えています。具体的には、木目金の技術を若い職人に余すところなく伝える取り組みを行っているんですよ。

当社で特に力を入れているのが環境整備。職場管理の指針として一般的に、整理・整頓・清掃・清潔・躾の「5S」が知られていますが、当社でもこれを工房に貼り出し、職人たちが意識して毎日の業務にあたることができるようにしています。会社が小さいうちは私服で作業をしていましたが、社員の数が増えるにつれて、ロゴマークが入ったユニフォームを作ってみんなで一体感を出したいね、という話が持ち上がりました。通常、工房にいる職人はお客様と顔を合わせることがないため、私服にエプロンを着けただけというような格好が多いですが、当社では環境整備の一環としてユニフォームの制作を決めたというわけです。

早速、インターネットで「シャツ」や「ユニフォーム」などで検索したり、ロゴマークの刺繍ができるお店を探したり。そんな中で「ユニフォームタウン」のサイトに行き着きました。これがランドマークさんとの最初の出会いになり、同じものを何度かリピートする形で、かれこれ5、6年のお付き合いになります。私服のパンツの上にロゴマーク入りのシャツを着て、エプロンを着けるというのが当社の職人のスタイル。職人だけではなく、私たちは「コンシェルジュ」と呼んでいますが、店舗の販売スタッフも同じユニフォームを着ています。一般的なジュエリーブランドはスーツや制服を着用することが多いですが、当社の商品は大量生産ではなく「職人の手作り」というのがウリなので、工房との一体感を出すために同じスタイルにしているんですよ。

金属を磨く作業では特に、金属粉が飛び散ってユニフォームが汚れがちですが、シャツの色はあえて白をチョイスしました。ものを作る上では常に感性を磨くことが大切で、日常と違うことにすぐ気が付けるかどうかや、身だしなみに気を配ることも大きなポイントです。汚れることはわかっているけど、きれいに保つことを忘れないための真っ白なんですよね。みんな何枚かずつ持っていて、自分でこまめに洗濯や管理をしています。

シャツのデザインはオーソドックスなシルエットのボタンダウンをチョイス。サンプルの試着などしなくても、各自が申告したサイズでみんなぴったりで助かりました。ロゴマークは左腕に、もともとの当社ロゴマークに近い赤の刺繍で。この桜をモチーフにしたマークは、当社が伝える伝統技術を日本の象徴的な桜で表現したものです。木目金という特殊な技術の魅力を世界にひろめるという使命を、桜の花のように開いていくイメージに重ね合わせたものでもあります。

みんな毎朝私服で通勤して、就業前にユニフォームに着替えていますが、「仕事着に着替える」というアクションが気持ちの切り替えに役立っているようです。ただの白シャツではなく、会社のロゴマークが入っているだけで責任感がわき、重みを感じますよね。また、はたから見ていても連帯感があって、職場環境が整備されているという実感がわきます。コンシェルジュにとっても、職人と心をひとつにして一致団結しようという気概が持てるようです。

お客様にも好印象を持っていただけることが多いんですよ。他のブランドさんは堅めの服装なので近寄りがたい感じがありますが、当社は工房と同じユニフォームにした結果、シャツにエプロンという親しみやすい格好になったのが良かったのだと思います。

お客様はみなさん、職人の手作りということに最も興味を持たれているので、「作っているところを見たい」というご希望をいただくことがあるんです。見学はお断りしていますが、そのような時には職人が作業をしている写真を見てもらうようにしています。私服よりも、社名とロゴマークが入ったユニフォームを着ている職人の姿は、お客様に安心感を与えることができるに違いありません。実際にはお会いできなくても、目の前にいる同じユニフォームを着たコンシェルジュが仲を取り持つ形で、お客様と職人とのつながりを感じていただけているのだと考えています。